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この事件をロシア軍に報告するように伝えた所、ロシア側は何も知らないと黙秘を貫いた。日本政府側もそれ以上の介入を拒み、詮索はしなかった。
基地内を早足で歩く立花中尉。部屋の扉を開けるとそこには1人の男性が、高級そうな椅子に座っていた。
「立花中尉であります!」
「急に入って来てなんだね君は?」
「大佐帰還命令とはどう言う事ですか?しかもそれと同時にあの『アンノウン』は…」
「何か腑に落ちない事でもあるのかね?帰還命令を出したのは…」
「大佐!死人が出ておるのですよ!」
机を両手のひらで叩く中尉。大佐はそれに怖じ気づいた。立花中尉が続ける。
「あなたは何かを知っておられる…。あの機体はロシアの物に間違いありません!我々がこの目で見たのです」
「中尉…例え私が何か知っていたとしても、何も喋る必要はないのだよ…。我々には守秘義務と言う物があるからね…」
「私たちは…モルモットですか…。命すら虫けらのように扱われる実験体のようだ…」
「…」
立花中尉は敬礼をして部屋を去って行った。残された大佐が、舌打ちをする。
「ちっ…青二才めが…」
大佐はそう言うと、机の上で両手を組み葉巻を吹かした。
その頃ユウは医務室のベッドに横たえていた。側にはジュリーが付き添う。
もう一人の軍医の新島曹長も、それに連れ添っていた。眼鏡をかけた女医だ。その新島曹長がジュリ-に言った。
「ジュリー伍長、そんなに始終付いていなくても平気よ…。ただ精神的に少し疲労しているようだから、眠らせてあげて」
「はいっ!新島曹長。しかし…心配なもので…」
新島曹長はそのジュリーの態度を見て、口元に手をやり微笑んだ。
「ぷぷっ…好きなのね…」
その言葉に過敏に反応して、顔を赤らめるジュリー
「そっそんな事…ないです」
ジュリーは恥ずかしげにうつむいた。
それを横目にユウが、何かを言いたげに口を開いた。
「なっ…ナナ…」
か細い声は確かにそのように聞こえた。
「新島曹長!ユウがユウが目覚めました!」
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