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「いやー、今日のライブもよかったんじゃね?」
「お前、スティック落としそうになっただろうが!」
「次から調子に乗って、パフォーマンスとしてスティックを振り回すの禁止な」
とあるドームの、関係者以外通行不可の廊下を、三人の男が歩いていた。そのうちの一人が上機嫌に話していたが、残りの二人がそれに鋭いツッコミを入れる。
「うぐ……いいじゃんよー、結果オーライなんだしさー」
注意を受けた男は、どこか不満そうに言うと、注意したうちの一人がキッと睨み付けた。
「それは今日たまたまだろ!次も上手くいくと思ってんのか!」
二人が言い争っていると、ギターケースを背負った、このメンバーのリーダー格らしき男のポケットの中にある物が震え出す。
ギターケースを背負った男はポケットに手突っ込むと、中から黒いボディの、二つ折り式の携帯を取り出し、ボタンを押して操作した。
少しの間画面を見て、一つ息をつけば携帯を閉じる。言い争っていた二人は、それを見ると口論を止めた。
「仕事か?」
「出番?」
心無しか楽しげに見える二人を見て微笑めば、ケースを背負った男は携帯を戻しながら頷いた。
「ああ。もう一曲、奏でに行くぞ」
そう言うと、三人は夜の街へと駆け出した。今日もどこかで鳴り響く、観客に捧げるレクイエム──。
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