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「えっと……名前………」
「あ………」
言われて初めて気が付いた。
康高はまだ彼女に名前を告げていない。
自分は生徒手帳を見て瀬奈の名前がわかったが、彼女からしてみれば、康高は謎の少年Aにすぎない存在だ。
危ない、危ない………
ただの方向音痴として記憶されるところだった。
実際に道は覚えられないが………
身体ごと瀬奈の方を向き優しく微笑む。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「江戸康高。今日からここの2年だよ」
それじゃ、と言い残し、康高は職員室へと去っていった。
肩からは、もちろん愛用のラケットバッグを下げて―――
「江戸…康高………」
少年の名を口に出して繰り返す。
なぜだろう。
彼と会ったのは初めてだ。
それなのに………
(どっかで聞いたことある気が………)
頭の中にモヤモヤしたものが生じる。
思い出せそうで、思い出せない。
中途半端な状態が続き、どこか落ち着かない。
数秒間、瀬奈はその場で頭をひねり続けた。
「………って、こんなことしてる場合じゃない!!」
友人との約束を思い出し、大急ぎで廊下を駆け抜けた。
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