自殺志願者の憂鬱

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 幼い息子は私の言葉の意味が分からなかったのだろう、しきりに首を傾げてみせた。それに対して、ただ微笑みを浮かべる。 「さ、ママを迎えに行こうか」  息子の手を引いてスーパーへと歩く。徒歩十五分ぐらいで着く、割と近場のスーパー。そこの近くまで来ると、ちょうど買い物を終えたのか、中身の詰まったエコバッグを腕から下げて出てきた妻の姿を発見する。  近づいた所で、「ママー」と、無邪気に笑って息子が妻へ駆け寄る。私は妻の負担を減らす為にエコバッグを持った。「いいのに」と言う彼女を笑顔で制止する。そうしたいからしただけだ。  片手にエコバッグを持って歩くと、隣に妻と息子が並んだ。息子が私と妻の両方に向けて手を差し出す。何をしたいかは、もう分かっている。  妻と一緒に彼の小さな手を掴んだ。「せーのっ」という掛け声を二人で揃えて持ち上げる。月面ジャンプのように上げ下げを繰り返し、息子の笑い声を聞く。  初めて「死にたい」と思ってからかなりの年月を経た。今の私はこうして和むほどの幸せを感じている。それはおそらく妻も息子も一緒だろう。噛み締めた幸福に、私の口の端が持ち上がる。  だけど、何故だろう。  「死にたい」という欲求が、いまだに心のどこかにある。  何故その気持ちを抱くのか。答えはまだ、見つからない。 ~fin~  
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