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「イツ、今日バイト?」
講義が終わり、そそくさと帰り支度をしている一稀に声を掛かった。
振り向くと帯屋孝志(オビヤ タカシ)が、気の強そうなつり目を細めて笑っている。
親友の姿に、一稀の端正な顔も自然と綻ぶ。
「うん、今日はファミレス」
一稀より幾分背の高い孝志を見上げると、同時に栗毛がふわりと揺れた。
長めのストレートは忙しくて切りにも行けず、伸ばしっぱなしだ。
返事を聞いた孝志は、あからさまにがっかりした表情を見せる。
「なに、何か用事だった?」
「あー合コン」
なぁんだ、と一稀が息を吐く。
「なぁんだじゃねーよ。イツの存在って結構貴重なのよ?」
孝志はにぃっと笑い、人差し指で一稀の額を小突いた。
「…っ」
「向こうにガッカリされるような面じゃねぇし、そのくせ女には興味ねぇし、ね」
「べ、別に女の子に興味がないわけじゃ…」
「はいはい、でもイツの一番の恋人はお金ですよねー」
う。
否定しようとしたが、ぐうの音も出ずに詰まる。
しかし反論できないがやっぱり不服なので精一杯むすくれて見せると、孝志は声をあげて笑った。
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