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「はっ…はぁ…」
家についた頃には息が切れていた。
そんな長い距離ではないので、いつもであれば息切れなんてしないのだが。
それだけ必死…だったんだろうなぁ…。
一稀は自嘲気味に笑った。
「…はぁ」
玄関の前で再び大きく深呼吸をし、ノブに手を掛ける。
やっと開いた手のひらは、じっとりと濡れていた。
「ただいま」
まるで何事もなかったように、一稀は冷静を装う。
玄関を開けると、たまたま廊下にいたのであろう妹と目があった。
パッと華やかに、笑顔が咲く。
「おかえりお兄ちゃんっ」
「愛美…」
無邪気に笑う妹はいつもどおりだ。
変わったところはまったく見られない。
「寝てろって言っただろ」
「今から寝るもーん」
「父さんと母さんは?」
「テレビ見てるー」
話しながらリビングへ。
ソファに座って笑いあっている二人に声を掛けた。
「ただいま」
「あ、おかえり一稀」
「おかえりなさい、イツくん」
二人もいつもと変わらない。
じゃあさっきの連中に会ったのは俺だけ、か。
そこまで確認して、一稀はやっと息をついた。
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