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偽物の自画像は僕を見下ろす
雨の日
電車でやって来た僕を見下ろす
傘立てに置いてきた傘は今頃
だんまり滴を垂らしているんだろう
そうして止むのを待っているのだ
誰かが描いたこの男は
照明を反射する硝子の中
温かそうだ(染まった頬は物語る)
靴の中まで真っ黒に濡れた僕が
彼の前に座っている
そうして奴を見上げてやるが
彼は僕を見ちゃいない
自信に満ちた顔で(薔薇色の頬なんて言ってやるものか)
鉛色に濁った階段を見つめている
何もいない
隣のポプラもまどろんだままで
赤いこの部屋の僕らは
向かい合えずに対峙する
傘立ての傘は今頃
集めた最後の滴をやっと落としただろう
そうして連れ出す手を待っているのだ
そうして温んだ僕は
きっと そいつを置いていくんだ
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