夜のお茶会

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古ぼけたバスストップが見えて来て、僕はネクタイを緩めた。 触れたベンチはひんやりとしていて、座るのが躊躇われる。僕は背もたれに寄り掛かるようにして、缶コーヒーをすすった。 今日は星が見えない。 薄い雲に覆われた空は暗く、月明かりでさえ朧気で。 吐いた息は白くなって宙で消えた。空までは到底届きそうもない。 …カツン、カツン。 靴音が近付いてきて、僕は右腕の時計に目をやった。もうこんな時間か。 カツン。 靴音は僕の横で止まった。 僕は特別、その主に視線を合わせたりはしない。ただ視界の隅に、白いトレンチコートが映るだけ。 再び空を仰ぎ、缶コーヒーを一口含む。 隣りから、鞄を開ける音がする。多分、小さなペットボトルを取り出してる。 思った通り、取り出したペットボトルと、それを傾ける細い手が視界に入り込んできた。 そして小さく、ふぅ、と息を吐くのが聞こえる。 …今日も一日、お疲れさん。 仕事帰りのバス待ちの時間。名前も知らない君と、ほんのひとときの、夜のお茶会。
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