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「泣いてるの?」
「……、っえ?」
柚稀がカナトに出会ったのは、怖いくらいに月が輝く深夜のネットカフェだった。
そこのネットカフェでアルバイトをしていた柚稀はその日、いつものように仕事を終えて裏口から出てきた。
このアルバイトを始めてから一ヶ月……
始めた理由は、なんと言っても自分の不注意が招いたものだった。
普段から不注意が悪いところだと親からもよく言われていたのに。
アルバイトを探していた柚稀は、時給と仕事内容しか見ていなかった。
その場所は、根は真面目な学生、柚稀とはまず無関係であろう場所だったから。
ここは夜になると動き出す歓楽街の外れ。
それでも、与えられた仕事はやりこなせ。
それが柚稀の父親からの教え。
ようやくこの仕事にも慣れてきた頃。
裏口の石段に座って一息ついていた時だった。
声を掛けられて顔を挙げると、いつの間にか目の前に1人の青年が立っていた。
「下向いてるから、泣いてるのかと思った」
怖いくらい綺麗に輝く月の真下。
中性的で、端正な顔立ちに、小柄な身長。
それが、カナトだった。
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