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痛い、苦しい。叫びは声にならず、ヒュ、ヒューと空気が抜ける音がする。
窒息死、かな。それなら刺殺になるのか? なんか違うかも。
天井は首に触れようとしたが、体が全く動かない。何故かを考え、ああ脊椎を貫通したんだと結論を出した。
しっかりしろ、と少女の声がする。薄目を開けるとすぐ上に顔があり、心配してくれているようだった。
さっき誰かが倒れた音がしたから、この子があの兵士を殺したのかな、と天井は思った。
「私に貸しを作っておいて、死ぬんじゃない! おまえだってこんな所で死ぬわけにはいかないんじゃないのか!」
……ああ、その通りだ。まだ二人を見つけてない。だいたいこんな見知らぬ場所で死ねない。いくらなんでも短すぎる。やりたい事がまだいっぱいある。だから
……まだ、死ねない。
『身体の異常を感知。COM、起動します。』
ピピッと電子音がしたかと思うと、天井の視界が緑色のガラスを透したようになり、パソコンのワードソフトのように文字が表示される。
優しげな女性の声が同じ文を読み上げているのも聞こえる。
『身体の再構築は不要と判断、治癒術を実行します。』
「な、なんだ!? 傷口が輝りだしたぞ?」
天井には、少女の声がベールがかかっているかのようにぼんやりとしか聞こえなかった。しかし、何かが起きているのか、は分かった。
そう表示されるや否や、首のあたりに一瞬違和感を感じた。
痛みが消え、呼吸ができるようになった。触ってみれば血で濡れてはいるようだが、いつもの肌の感触がした。
『処置終了しました。』
「嘘……塞がってる」
天井は自然と、天使とやらのあの言葉を思い出していた。そして同じように、自然と理解した。
――これが……あの天使の力なのか。
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