いわゆる【始まり】

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   薄く、空一面に拡がる雲を光は突き抜けて、街をオレンジ色に染め上げる。  時刻は四時過ぎ、早くも昼と夜の境目の現象が起きているのは、真冬ともいえる一月の下旬だからだろう。  高校生はこの時間帯、少ない部活時間をカバーすべく熱気を放つ者、教室等で勉強に励む者、そして帰途に着く者の三種に大別できると言っても過言ではない。  天井 蒼(アマイ アオ)は最後の部類に入る。  コンクリートでできた、灰色の巨大なアーチ型の校門を背もたれにして、眠るように彼は立っていた。無造作に伸びた柔らかな黒髪が、白人のような肌が夕日に照らされ朱く染まっている。  ――遅いな。  彼の想いが勝手に口から零れた。ここに立ってから二十分が経つ。教室の暖房で暖まり過ぎていた体もさすがに冷えてきて、垂れそうになる鼻水を何度もすすっている。  何かあったのか、捜しに行こうか、でも行き違いになりたくない、と彼は悩んでいた。その間にも冬の寒気は彼から体温を奪い、彼はくしゃみを一つ。  後五分待って来なければ捜しに行こう、と結論を出した頃、彼は待ち人を視界の端にとらえた。 「遅いよ二人とも」  天井は安堵して声をかける。声色は苛立っているかのように。  待ち人達――髪をふわりと立てた体格の良い男と、深い緑のマフラーにベージュのコートに黒い手袋をした女――は小走りで天井に近付き、軽く頭を下げた。 「悪いな、テストの結果の話でクラスの奴らと盛り上がっちまってさ」 「ごめんね、いつもより掃除が長引いたの」  天井はしばらく拗ねたような態度を見せたが、やがて笑い出した。 「なんてね、冗談だよ」  すると男は笑顔で天井に殴りかかり、少し暴力的なスキンシップをとる。  女はそんな二人を見て笑い、それじゃ帰ろっか、と言い、歩きだす。  それが三人の日常で、そんな日常が天井の幸せだ。  
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