いわゆる【始まり】

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   天使、はひどく狼狽した様子だった。 「わ、私の声が聞こえたのか? まぁいい、時間がない」  さっき暇潰しと言ったのに今度は時間が無い。矛盾した発言に天井は疑問を抱き、細く濃い眉をわずかにしかめる。  天使、は指先で素早く空中に絵を描くような動作をし、小声で言った。 「a captive」 『捕われ人』  三人の体が少し宙に浮き、半透明の光の膜のような物が球形に体を包みこむ。 「なんだよこれっ」  赤坂が驚き、声を上げた。 「手荒な真似をしてすまない。だが、話を聞いて欲しい」  天使、は深呼吸をして落ち着いた後、そう言った。  天井は膜を割ろうと思い腕に力を込めたが、身体が何か固定されているかのように全く動かない。 「すまない。でも君達に逃げられたら……私の望みはもう叶いそうにないから」  天井は逃走を諦め、天使、を観察する。よく目を凝らすと、服や翼は傷だらけでところどころ紅く染まり、凜としていた顔も、今はどこか疲れているように感じた。 「私は、第五世界を監督していた天使レイリーと言う」  どうにかして呪縛を破ろうとまだ唸っている赤坂をよそに、天使、は言った。 「あ、あの……第五世界って?」  天井と同じく抵抗を諦めた緑川が、恐る恐るといった調子で尋ねる。  レイリーは下を向き、目を閉じて、額に手を当てた。どう説明するべきか悩んでいるようだ。そしてそのままの姿勢で話し始める。 「まず、ここが第六世界って呼ばれてるのは知ってるかな」  三人は、その問い掛けに全く反応を示さない。  天使、はその沈黙を肯定の意思と判断したらしく、話を続ける。 「この世界にはいないんだけど、他の世界には一人づつ管理者がいて、それを天使って呼ぶんだ。つまり私は第五世界の管理者」 「な、お前……手」  赤坂が、弱々しく言い、天使の話を遮った。抵抗するのを止め、天使の額の辺りに視線を向けている。 「どうかした?」  天使は聞き返し、目を開けた。地面と腰から下の体が見える。天使は言葉の意味を計りかね、赤坂を指して何かおかしい? と聞き返そうとして、気付く。  肘から先が視界に映っていない。  天使は一瞬目を見開き、引き攣ったように笑った後言う。 「感覚はあるのに見えないっていうのは不思議なものだな」  天使は自分の身体を眺めながら呟いた。時折感嘆の声を上げながら、身体を眺める。  
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