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最初の遭遇者
――レイリーが死んだ。消エタ。レイリーガキエタ。ア、アアァァ!!
頭の中に声が響く。悲しみや苦しみ、後悔といった感情が痛みをともなってなだれ込んで来る。
私は片膝をつき、俯いて額に手を当てる。痛みで、無意識の内に顔をしかめていたのが分かった。
物心がつく前から、誰かの感情が流れてくる事があった。最初は、目の前の相手の声だと思っていたのだが、そうではなくてどこか遠くの、会った事もないような人の声らしい。少なくともまだ、耳を通して聞いた事はなかった……はず。
いつもなら途絶える頃なのに、未だ濁流のような勢いで流れ込んで来る。おかしい。意識を飲み込まれて一緒に叫び出してしまいそうだ。
ティリス、ティリス大丈夫か、と父上の声が聞こえる。ノックや扉が開く音は声に紛れて聞こえなかった。意識が浮かび上がる。流れは弱くなってきた。
もう大丈夫、そう思い私はゆっくりと立ち上がる。背後に父上がいるのを感じ、振り向いた。
「何でもありません司令官、もう大丈夫です」
その黒い瞳には心配の念が見てとれる。私はありがとうと心の中で呟いた。
「そうか。叫び声が聞こえたから何かあったのかと……本当に大丈夫なのだな?」
「はい。作戦には何の支障もありません」
何度大丈夫と答えても心配の念が消える様子は無かったが、着替えるからと部屋から追い出す。
一人になり、あの言葉の意味を冷静に考える。
レイリーと言われてすぐに思い浮かぶのは宗教、この国の国教でもあるレイリー教だが……死んだとはどういう意味だろう――――。
高い金属音――鐘の音が二つ聞こえた。集合の合図だった。思ったより長い間考え事をしていたらしい。
慌てて赤い髪を一つに結ぶ。分厚い革の服を着込み、その上からチェインメイルと真紅の鎧を纏う。この季節には正直辛いが仕方ない。
部屋から出る。適度に曇った空を見て、少し嬉しくなった。
開戦前の父上の激励、兵士達の雄叫びを聞きながら、少し離れた場所で私も戦いに意識を集中する。
――さあ、おいでセティ。一緒に飛ぼう。
その背に乗って飛ぶ。セティは何度も羽ばたいて、ゆっくりとその巨体を空へ昇らせる。空気は徐々に冷えていき、地上の蒸し暑さとは無縁の世界になった。
戦場を――ときおり風で波打つ緑の草原を見下ろす。
さぁ、始まりだよと呟いて、私はセティの首に抱き着いた。
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