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あまりの騒音に、天井は目を開けた。
深緑と澄み切った青が、ぼんやりとした視界に映る。生暖かい風が、天井の頬を優しく撫でていった。
目を閉じ、再び開ける。天井は、その動作を二、三度繰り返した後呟いた。
「どこだよここ……」
仰向けで大の字に倒れたまま辺りに注意を向ける。
森、という表現がぴったりだと天井は思った。
大樹がひしめき合い、青々と輝く葉の間から光が降り注ぐ。幻想的とも言える。
金属がぶつかり合う音や地響き、大声のせいで雰囲気は台なしだが。
前方は開けていた。そちらに行けば森からは出られるかもしれないが、ここがどこか分からないうえに、一人だ。
「あの天使……」
天井は腹筋を使って上半身を起こし、手をつき立ち上がる。地面はやわらかい土の感触がした。
「本当に何も説明しないままだったな」
誰に言うともなく口から零れた。そして天井は両手を上げて思いきり伸びをする。
鞄が無い事に気付いたが、どうせ教科書ぐらいしか入っていないから気にしない事にした。
溜め息をついた後、黒いケータイ――二年使い続けて塗装がかなり禿げている、をズボンの右ポケットから出し、画面と本体の間に親指を突っ込み押し上げ開く。
当然圏外、時刻は何故か二十三時。使い物にならない。他にもポケットの中にはキシリトールのガムや、のどあめが入っていたが、役に立たないだろうな、と天井は思った。
まあ多分、第五世界って所なんだろ。
天使の話から天井はそう推測する。
「第五世界到着記念に」
天井は、ケータイのカメラを自分に向け、シャッターを切った。そして保存。
天井はしばらく写真を見つめ、小さく呟いた。
「同じ場所に降ろせよ天使」
大きく溜息をつき、道に沿って天井は歩き出した。
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