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「そこのお前! 何をしている!?」
放心していた天井に声がかけられた。
ああ、日本語なんだ、などと思いながら天井は声のした方、上に顔を向ける。
ちょうど太陽と重なっていて声の主は見づらく、シルエットクイズのようだ。
正解は竜に違いない、天井はそう思った。本当にそうなら、第五世界はよほどファンタジーな世界なんだろう。
陰はどんどん大きくなり、近付いて来るのがわかる。地面すれすれで何度か羽ばたき、風圧で草が波打つ。そして天井の五メートルほど前方に着地した。
あらためてそれを見る。皮膚は岩肌のように硬そうで、鮮やかな緑色、頭から足まで三メートルはありそうだ。
翼は既にたたまれているが、開いていた時は非常に大きかった。
竜が手を前につき、体勢を低くする。
光沢のある、赤い鎧を身につけた兵士が、少し大きめの弓を脇に抱え、竜の背から飛び降りた。
ちっさ……、と天井は思った。鎧を着けているというのに触れば砕けてしまいそうな程、華奢な印象を受ける。
天井の肩までないかも知れない。さっき切り合っていた兵士は自分とそう変わらないように見えたから平均身長が低いわけではないようだ。
髪は彼岸花のように赤く、瞳はそれより少し深い紫がかったガーネットのような赤。白い肌と対称的で、とても鮮やかに見える。髪は後ろで一つに纏められ、肩の辺りまで垂れていた。
「ここは戦場だぞ?」
少女――と天井は判断した、は警戒しているようだった。
天井はとっさにここにいる理由を作り出そうとしたが、良いものが浮かばず、仕方なく
「いや、道に迷ってしまって」
自分で言っておきながら、天井は後悔した。
予想通り、少女の瞳が不信の色を強める。
「そんなわけないだろ、巻き込まないように町から遠く離れたところに陣を敷いているんだ。迷って来るような距離じゃない」
天井は答えに窮した。天井も自分の状況を誰かに説明して欲しいぐらいなのだから。
視線を合わせるのが辛くなったのか、天井の目が左右に泳ぐ。
少女の警戒心は完全にこの黒服の怪しい男、つまり天井に向けられているようだ。
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