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それから十年以上経った今も春雷が鳴り響いている。
さすがにもう怖くはないが、雷…特に春の雷は哀しい音がする。
叶うはずもない俺の恋を憐れむ音なのか、もしくは嘲笑する音なのか。
俺には知るよしもないけれど、今も昔もおんなじ音を響かせる春雷は、まるで俺と光一の関係が変わることがないことを表しているようだった。
「会いたいなぁ…」
小さく声に出してみる。その声は雨音に掻き消された。
会いに行ってしまおうか。
入ったことはないが、家の場所くらいわかる。
傘もささずにずぶ濡れで光一の家のチャイムを鳴らす。いくら初めて俺が家に行くからといって、ずぶ濡れの俺を優しい光一が追い返すはずはない。
そこで泣きながら好きだと言えば、きっと光一は俺の望むことをしてくれる。
だけど、それは同情でしかない。そんな卑怯なことしたくない。
だから俺は今日もひとりで雷と戦う。
ぎゅっと左手を握りしめた。
そのとき
ピンポーン
俺の家のチャイムが鳴った。
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