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俺は走った。
今にも心臓が壊れてしまいそうだ。
だけど、できるだけ遠くまで行きたかった。
楽しく飲んでいたはずなのに、なんで。
あの痺れ、あの空気はなんだったのだろう。
光一の綺麗な顔が近づいて…
拒めなかった。
むしろ俺が誘ったのかもしれない。
酔っていたからとか、そういう理由じゃない。
越えて、しまった。
もう、壊れてしまって直らない。
「ここ、どこ…」
気づけば、交通量の多い大きな通りに出ていた。
涙が溢れた。
すきなのに。すきであってはいけない。
切なくて悔しくて泣けてくる。
俺が女だったらよかったの?
出会わなければよかったの?
こんな、俺たちの十数年間をすべて否定するようなこと思いたくない。
でも、もう…
俺は涙をごしごしと拭いてタクシーを拾った。
タクシーの座席に沈み、また癖でネックレスを触ろうとした。
しかし俺の首にそれはなかった。
また、光一の家に置いてきてしまった。
同じ。最初とおんなじだ。
最初と最後が同じだなんて、なんて皮肉。
光一は、ネックレスをどうするだろうか。
棄てる、かな。
お気に入りだったけれど、仕方ない。
ネオンが流れていく景色を力無く眺めていた。
作り上げるのにはとても時間がかかるのに、壊れるのは本当に一瞬だ。
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