越えていくバイオレットライン(後編)

2/10
前へ
/82ページ
次へ
俺は走った。 今にも心臓が壊れてしまいそうだ。 だけど、できるだけ遠くまで行きたかった。 楽しく飲んでいたはずなのに、なんで。 あの痺れ、あの空気はなんだったのだろう。 光一の綺麗な顔が近づいて… 拒めなかった。 むしろ俺が誘ったのかもしれない。 酔っていたからとか、そういう理由じゃない。 越えて、しまった。 もう、壊れてしまって直らない。 「ここ、どこ…」 気づけば、交通量の多い大きな通りに出ていた。 涙が溢れた。 すきなのに。すきであってはいけない。 切なくて悔しくて泣けてくる。 俺が女だったらよかったの? 出会わなければよかったの? こんな、俺たちの十数年間をすべて否定するようなこと思いたくない。 でも、もう… 俺は涙をごしごしと拭いてタクシーを拾った。 タクシーの座席に沈み、また癖でネックレスを触ろうとした。 しかし俺の首にそれはなかった。 また、光一の家に置いてきてしまった。 同じ。最初とおんなじだ。 最初と最後が同じだなんて、なんて皮肉。 光一は、ネックレスをどうするだろうか。 棄てる、かな。 お気に入りだったけれど、仕方ない。 ネオンが流れていく景色を力無く眺めていた。 作り上げるのにはとても時間がかかるのに、壊れるのは本当に一瞬だ。  
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

420人が本棚に入れています
本棚に追加