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終わって、自分の楽屋で帰る仕度をしていた。
今日の仕事はこれで終わりだった。
コンコン
だれかがドアをノックした。
俺はマネージャーだと思った。
「はーい」
勝手に入っていい、というつもりで言ったのに外にいる人物は入ってこない。
マネージャーじゃなかったか?
スタッフかもしれない。
「入って大丈夫ですけど?」
またドアの向こうに呼びかけると、二秒くらい間があってドアノブが動いた。
現れたのはマネージャーでもスタッフでもなく、光一だった。
「…どうしたん」
「………」
「ん?なに?」
「ネックレス」
「え…」
「ネックレス。置いていったやろ。取りに、来て」
光一は覚えてなかったんじゃなかったんだ。
しっかり全部記憶に残って。
光一の眼を見た途端にそれがわかった。
じゃあ今日のあれはすべて演技?
なんてひどい役者。
俺の心はぐらぐらと揺れた。
「え、取りにって…そんな……俺帰るし…」
「仕事ないんやろ。だったら取りにきて」
「…でも」
「いいから来い」
光一は怒っているような有無を言わせぬ口調で言った。
だけど表情はすごく悲しそうだった。
「……わかった」
俺は行くしかないんだと感じた。
その後光一は俺のマネージャーに合作曲のことで俺も自分の家に行くということを告げた。
マネージャーは前回のことも知っているのであっさり承諾した。
ここも同じだ。
また、ここから以前までと同じ生活が始まればいいのにと、俺は叶いもしないことを思った。
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