越えていくバイオレットライン(後編)

6/10
前へ
/82ページ
次へ
光一の家に着いてリビングにあがると、そこには絨毯にはっきりと赤黒いワインのシミが残っていた。 「これ…どうすんの」 独り言と問い掛けの間のような呟きだった。 光一は何も言わなかった。 ふとテーブルの上を見ると、ネックレスが置いてあった。 俺はそれを手に取り、着けた。 「ごめんな。ネックレス」 「ああ」 「そういえばパンは?」 「オカンんとこ」 「そう…」 それっきり俺たちは黙ってしまった。 ただふたり立ち尽くすだけの時間がしばらく続いた後、光一が静寂を裂いた。 「……お前、もうここに来るな」 俺は答える言葉がなかった。 「お前のもん全部持って帰れ。布団はいいからそれ以外の…マフラーも靴下もクッションもそれも、お前のやろ。二週間もなくて困らんかったか。持ち切れんかったら郵送でもしたるから」 それは当たり前のことだ。 俺だってもう二度とここに来ることはないと思っていた。 それなのに何故こんなに悲しいんだろう。 喋ったら泣いてしまいそうで何も言えない。  
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

420人が本棚に入れています
本棚に追加