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光一の家に着いてリビングにあがると、そこには絨毯にはっきりと赤黒いワインのシミが残っていた。
「これ…どうすんの」
独り言と問い掛けの間のような呟きだった。
光一は何も言わなかった。
ふとテーブルの上を見ると、ネックレスが置いてあった。
俺はそれを手に取り、着けた。
「ごめんな。ネックレス」
「ああ」
「そういえばパンは?」
「オカンんとこ」
「そう…」
それっきり俺たちは黙ってしまった。
ただふたり立ち尽くすだけの時間がしばらく続いた後、光一が静寂を裂いた。
「……お前、もうここに来るな」
俺は答える言葉がなかった。
「お前のもん全部持って帰れ。布団はいいからそれ以外の…マフラーも靴下もクッションもそれも、お前のやろ。二週間もなくて困らんかったか。持ち切れんかったら郵送でもしたるから」
それは当たり前のことだ。
俺だってもう二度とここに来ることはないと思っていた。
それなのに何故こんなに悲しいんだろう。
喋ったら泣いてしまいそうで何も言えない。
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