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一番最初はたしか初めての生放送前。
テレビ局のトイレの隅、ふたりで震えるほどに緊張していた。
特に光一より剛のほうが深刻で、もはや顔色が悪い。
「あかん…僕死ぬ…。なんかもう緊張で死んでまう…」
「おい、大丈夫か?」
「光ちゃんは平気なん?」
剛は今にも泣きそうな目で光一を見る。
「いや…、俺も相当やばい」
「あああ…無理、無理や…」
この状況は良くない。
そろそろ時間も迫っている。
しかしこの状態のまま出演しても最悪なことになりかねない。
その時、ふと光一の頭に以前読んだ漫画のあるシーンがよぎった。
主人公の少年がサッカーだが何だったかの試合前、がちがちに緊張しているところに、ガールフレンドと思わしき少女が「緊張をほぐすおまじない」とか言って、少年にキスをするシーンだった。
(これだ、もうこれしかない)
「剛」
「ん?な、」
剛がなに、と言いかけた唇に光一は触れるだけのキスを落とした。
「えっ?な、な…!光ちゃん何するん!?」
剛は嫌悪というよりただ驚きのみを光一に向けた。
「なにって…えと…緊張をほぐすおまじない…?」
(読んだ時はくだらないと思ったはずやのに…)
「おまじないって…」
顔を赤くしてそう呟く剛の目は不安が薄らいでいるようだった。
「剛、いけるか?」
「…うん…!」
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