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それから生放送の前、コンサートの前、とにかく激しい緊張に襲われる場面の前には必ずふたりはこの「おまじない」をした。
本番前、お互いの楽屋に行ってしたり、セットの陰に隠れてしたり、そのスリルもなんとなく好きだった。
十数年間ほとんど変わらない「習慣」だった。
変わったことと言ったら、ある時気まぐれに光一が剛の唇をふにふにと噛んだら、剛は「それ、めっちゃ安心する」と言ったので、そのオプションが加えられたことと、十周年の記念ライブの時は、初めて終わった後にもキスをした。
それは、いつもする「おまじない」とは違う、何かずっと自然で優しいキスだった。
しかし、ただそれはそれだけで、ふたりは恋人というわけではなかった。
彼女がいた時もあったし、プライベートはほとんど知らない。
お互いの家もあまり知らないが、ただ一度だけ光一は剛を家に招いたことがあった。
それは、剛が悩み苦しみ、消え入りそうになっていた時代。
一晩中何を話すでもなく、ただひたすら光一は剛の手を握りしめた。
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