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そして、剛は今苦しんでいた。
まるで自分の肉体を削ぎ切られるような痛み。
十数年前の、何もなかった「空虚感」とは違う、あったモノが失くなっていく「喪失感」。
悲しい。苦しい。…消えたい。
(あかん…これから生の本番なのに……)
「剛、時間」
「……」
「剛?」
「あっ、ごめん。ぼーっとしとった」
無理して笑う。
それを光一が見逃すはずはなかった。
(おかしい)
すこし違和感を感じたが、時間が迫っているのですぐに「おまじない」をする。
「いけるか?」
「‥うん」
あっさりと収録が終わり、帰り仕度をしている時、光一はふと剛を見た。
そして、ぞっとした。
(あの目は……)
剛はあの時と同じ目をしていた。
光が消えた空っぽの目。
剛がまた消えてしまう。
「剛、お前今日俺ん家来い」
光一の口から考えるより先に言葉がついて出た。
剛はふわ、と顔をあげた。
「え…?」
「とにかく、な?」
光一は剛の目を見て諭すように言った。
(光一は、たぶんわかったんや…俺のこと)
剛は無言でうなづいた。
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