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十数年ぶりに訪れた光一の家は、ほとんど生活感が感じられなかった。
そのせいか床に散らばるパンのおもちゃとのギャップがどこかおかしい。
剛はなんだかいたたまれなくて通されたリビングの入り口で棒立ちになっていた。
「そのソファーにでも座っとって」
光一は黒い四角形みたいなソファーを指差した。
剛はふらりと光一の指の先に示された位置に座る。
ふと部屋の隅を見ると、パンが愛くるしい姿で寝ている。
「これ。砂糖も入れた。ちょっと季節的にはあれやけど、落ち着くやろ」
ぼんやりしていたら、光一がホットミルクを持って来た。
「あ…の、光一、俺…」
「大丈夫。ええから飲んで」
光一は優しく笑った。
剛はホットミルクを一口飲んだ。
その温かさが光一の優しさとそっくりで、不意に涙が溢れた。
「…っ、ごめんっ……お、れ、なんで………っ」
「大丈夫やから。何も喋らんでええから」
光一は剛の手を強く握って頭を撫でた。
そうすると剛は子供のように声をあげて泣いた。
その間ずっと光一は手を握って頭をよしよしするように撫でた。
口べたで不器用な、光一の最大級の優しさだった。
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