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「なん?」
「………っ」
言葉が詰まり話せない。
「ん、どした?」
光一が剛に歩み寄る。
「お………て」
「なに?聞こえない」
剛は光一の服の裾を掴み、見上げた。
「『おまじない』、して…」
剛の声は弱々しかった。
また泣きそうな目だった。
光一の目は一瞬驚きに揺れた。
しかし、何も言わないですぐに唇を重ねた。
温かな優しい「おまじない」だった。
数回光一が剛の唇を甘噛みして、そしてお互いの唇が離れた。
光一の目も剛の目も切なげに揺れる。
「光一…、もっと、もっと、たくさんして、…『おまじない』…」
初めてだった。
仕事の前以外に「おまじない」をするのも、一度以上の「おまじない」を請うのも。
しかし、今度は光一は少しも迷わずに額にキスをした。
次は頬。
瞼、鼻先、こめかみ、とにかく顔中にキスの雨を降らせた。
そして最後に剛を抱きしめた。
「一緒に、寝ような」
剛も抱き返し、ふたりはそのままベッドに横たわった。
「どこにも行かんといて」
「うん」
「そばにいて」
「うん」
「光一は、光一だけは俺から離れたりしないで」
「うん」
ふたりはその言葉を交わして、眠りについた。
剛はふと目を覚ました。カーテンの隙間から日の光が見える。
そして、隣の温かさに気づく。
光一はまだ剛を抱きしめていた。
眉間にしわを作りながらも光一は無意識に一晩中剛を抱きしめ続けていたのだ。
そのことを思うと、剛の胸の深いところから、何かふんわりと温かい何かが湧き出るのを感じた。
この感覚は。
(なんや。こんな簡単なこと)
剛は光一の眉間のしわを指で伸ばした。
すると光一が少し不機嫌そうに目を覚ました。
「あ゛ー、剛起きてたんか…」
「うん。おはよう」
「んー…はよ…」
「光一」
「なん?」
「好き」
「 おまじないにさよなら 」
するとあなたは綺麗な顔を崩して、唇にキスをしました。
それは「おまじない」ではなく、愛のあかし。
→あとがき
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