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「おかえりなさい、お父様」
少女はそう言うと軽くお辞儀をする。少年の方は何も言わず顔を背ける。
男はその二人に侮蔑の視線を投げかけると無言でその横を通り過ぎる。その後ろを子供が妖しい笑みを浮かべながら通り過ぎると少し先で立ち止まり、少女たちの所へと戻ってくる。
「紗羅衣(さらい)ちゃん」
子供が少女の名前を呼ぶ。
その声に少女は振り返り子供と向き合う。
その表情はひどく冷たい。
「もうすぐ僕がこの御堂家の当主になるからね」
「……そう」
子供の言葉に少女はそれだけ言うと再び体を反転させ、歩き出す。少年がそのあとに続いて歩いて行く。その姿を子供は憎々しげに見つめる。
「ふん、今だけだよ、紗羅衣ちゃん。僕にそんな態度をとれるのは、ね」
そう呟くと子供は男が向かっていった方へと走っていく。
少女と少年はしばらく無言で歩いていたが、少年が一つ息を吐き出すとそれを合図にしたかのように少女が口を開く。
「由宇羅(ゆうら)、どうしたの?」
「うん? いや、何でもない」
「そう?」
少女の顔は先程の子供と対峙していた時とは打って変わってとても優しかった。
「うん…、ていうか、さっきのあいつの言葉、姉ちゃん、どう思う?」
「もうすぐ僕が御堂家の当主になる、って?」
「うん。親父も帰ってきてたし、あいつがそんなことを言うってことはさ」
「お父様が『彼』を無事に連れて帰ってきたってことね」
「……安倍晴明様、を」
再び二人の間に沈黙が訪れる。
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