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「奇麗だね―・・・」
奏子は、シュワシュワと咲く淡い光の花を見ながら、そう呟いた。
「だなぁ」
のんびりと悠も答えた。
縁側に置いた麦茶の入ったグラスの氷が溶け、ぱきりと音をたてる。
程よく風が吹き、月の光もあまりない夏の夜。絶好の花火日和だと、奏子は嬉しそうに笑った。
そして、いそいそと濃紺の浴衣を着て桃色の帯を締め、蚊取り線香を縁側に置き、麦茶をグラスに入れて持ってきた。
もう8月も終わりの週。まだまだ昼間は暑い日が続くだろうが、夜はかなり過ごしやすくなった。
「あ、こうすると奇麗」
「ばか、危ねぇ」
花火を二つ持ち、くるくると光の輪を描く奏子をたしなめながらも、悠の顔が綻ぶ。
奏子が夏の初めに買っていたらしい花火セットはかなり量が多く、全部終わるまでにいったい何時間かかるんだろうと思ったが、悠がぼんやりしている間に、どうやらもう3分の2は終わってしまったらしい。
残りは普通の花火が何種類かと、線香花火。
「・・・も―終わりかぁ」
「だなぁ」
ふわりと心地よい風が吹く。風鈴が、りりん――と澄んだ音を立てた。
しゅわり。
奏子は青色のバケツに燃え尽きた花火を入れた。
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