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(半年前、自分は、もう。)
悠は、ゆっくりと空を仰いだ。
白い画用紙を黒い絵の具で塗りつぶしたような、濃く澄んだ夜だ。
行かなければならない、と悠は思う。とても心配だけれど。もう、ここにはいてはいけないと。
半年間、悠はずっと奏子の傍にいた。そして同時に、奏子を心配する両親や友人の姿を見ていた。
自分がいなくなった後、泣きながら暮らす奏子を救ったのは彼らだ。
部屋にこもる奏子に、奏子の母は毎日食事を持っていった。 奏子がなかなか食事を摂らず痩せてしまった時、母はつとめて明るく接したが、夜、1人で泣いていた。
学校に来ない奏子を心配して、真紀や多美がノートを持ってきた。
彼らのおかげで、奏子は笑顔を取り戻した。
でも。
朝早くに目が覚めたときや、夕暮れの道をひとり歩いている時。ふとした瞬間に、悠のことを想いぼろぼろと涙を流すときがあった。
胸がせつなく締め付けられて、泣きたいのに泣けずただただ枕を抱きしめている夜があった。
何度、流す涙をぬぐってあげたいと思ったか。何度、泣けない奏子の肩を抱きたいと思ったか。
泣いている時も、泣けない時も。いつも、そばにいたのに・・・。
だけど―――
奏子のそばにいたい。それは、忘れられる事を恐れた自分の我侭だった。
だから、もう。
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