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でも、本当に懐かしい。故郷を離れて都会の短大に進学して、そのまま親元には戻らずに就職したから、同窓会でもない限り同郷の知り合いに会うことなんてなかったのに。
尾上くんは数少ない男子部員の一人で、物静かで無口だったけど、背が高くて体格もよかったからチューバやスーザホーンなどの大きな楽器を担当してて、黙っていても目立つ男の子だった。
わたしとは通学電車が同じで、帰りはわたしが先に降りるんだけど、部活で下校が遅くなったときはいつも尾上くんも一緒に降りて家まで送ってくれたりもした。
「茉莉花先輩?」
「えっ? ああ、ごめん。ちょっと回想に浸ってた」
「じゃあ僕、もう行きます。お客さんをずいぶん待たせてしまってるので」
「あ、うん。また改めて連絡して、尾上くん。わたしの携帯の番号、高校のときから変わってないから」
「──はい」
サンタクロースの衣装の帽子をキュッと目深に被り直した尾上くんは、足早に階段を駆け下りていった。
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