18人が本棚に入れています
本棚に追加
階段を駆け下りてアパートの外に出ると、白いスクーターに乗ったサンタクロースは無事にピザの配達を終えて、わたしの目の前を走り去ろうとするところだった。
「──待って、尾上くん!」
聞こえなかったのか、そのまま行ってしまう。
と思いきや、交差点の手前でスクーターはピタリと停まり、Uターンで引き返してきてくれた。
「茉莉花先輩──」
「何時に終わるの?」
「えっ?」
「あ、仕事。今日は何時まで?」
「クリスマス・イヴだから忙しくて、何時になるか……」
「何時になってもいいから、終わったらピザを届けて」
「あ、あのっ……」
「チラシのいちばん最初に載ってたチキンと三種のキノコのピザ、Lサイズで」
「あ、はい」
キョトンとしながら応える尾上くんに、わたしは財布から出した二枚の千円札とクーポンを一緒に渡す。
「それで足りるかな?」
「はい、消費税込みで二千八百円です」
「そう。じゃあ待ってるね」
「でも、本当に何時になるかわからないですよ?」
「どんなに遅くなってもいいわ。もしかしたら眠ってしまうかもだけど、インターホンを鳴らしてくれたら起きるし、わたしがもし起きてこなくても、玄関の鍵を開けておくから部屋に上がって起こして」
「だ、駄目です。鍵はちゃんとかけないと」
「じゃあ、合い鍵を預けておく。それならいい?」
わたしは尾上くんの手に、硬貨と一緒に財布に入れていた合い鍵を無理やり握らせた。
最初のコメントを投稿しよう!