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軽い身のこなしでガードレールをヒョイと飛び越えると、散らばった中身を次々と鞄の中に放り込み、
「──はい」
と、片手で私に差し出した。
「怪我しなかった?」
「う、うん」
「オッチョコチョイなんだね、おねいさん」
素直にお礼を言おうと思ったけど、もったいないからやめておく。
「もう着いてこないで」
「わかりました」
私は鞄の中からマフラーを取り出すと、男の子の首に巻いてやった。
「これあげるから、本っ当にもう、絶対に着いてこないでよ?」
「おねいさんの手編み?」
「そうだよ」
「俺がもらっていいの?」
「失恋のお見舞い。お大事にね」
男の子の指が不揃いな編み目を撫でた。
「ねぇ、もしまたおねいさんに会えたら、そのときは本気で口説いていい?」
「Leave me alone(放っといて)」
私はそう言うと、今度こそ家に帰るべく歩き出した。
日本語が通じないだけに英語は解るのか、男の子が着いてくる気配はない。
ただの行きずり、通りすがり。もう二度と会うこともないだろう。
もしまた会えたら、そのときは全速力で逃げよう。
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