はじまり

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何ともくだらない争いだ。 呆れさえ感じ、その場を離れようと動きだそうとした時、 「はい、じゃあそこの手を挙げなかった子」 金沢の指が絆を指している。 何を勘違いしたのか、絆を指名した。 消極的で手を挙げられない子、とでも思われたのだろう。 さらには絆の容姿に目をつけたに違いない。 「は?私ですか?」 絆は予期し得なかった事態に間の抜けた声を出してしまう。 「ずる~い」「いいな~」 周りの女どもは、今もうるさい。 いや、目には殺気さえ感じる。 絆は強制的にコートの中に招き(引きずり)入れられた。 そしてラケットを持たされる。 「テニスは初めて?」 気色の悪い甘ったるい声で絆の耳元でささやく。 悪寒が走ったが、ここでそれを表に出すわけにはいかない。 「いえ。多少は経験あります。…ゲームでいいですよ。指導なんて受けたくないですから」 表に出すわけにはいかないと思いながらも、先輩にたいしてひどい言い方。 絆本来の性格が出ていた。 この男の話し方や声に腹が立っていたのかもしれない。
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