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はっ、と月夜は痛みで我に返った。
気付かないうちに、手を握りしめていたらしく、爪が食い込み血が滲んでいた。
月夜は、その自分の血にすら興奮しそうになったが、痛みが冷静にさせた。
何してんだろ…。
また、ため息を零した。
思いをかき消そうとして、あからさまに大きく吐き出す。
「…はぁ」
「よう」
「!?」
不意に聞こえた声に、月夜は慌てて振り返る。
聞き覚えある声。
そこにいたのは、昔馴染みだった。
「…椎弥」
月夜はびっくりして、目の前に立つ人物の名前を呼ぶことしかできなかった。
「久しぶりだな、月夜」
深緑の双眸を細めて笑う顔が、昔と何も変わらず、懐かしさが込み上げる。
…はずだったのに。
もう、目覚めてしまったのね…。
月夜の中には、不安と焦りが渦巻いていた。
「そうね。何百年ぶりかしら?」
月夜は胸の内を悟られないように、にっこり笑ってみせた。
「さぁ?ま、お前が先に目覚めているなら、ここかと思って…」
椎弥はそう言うと、辺りを見回した。
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