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時は、世紀末の混乱が、いとも簡単に捨て去られた現代。
天変地異は各地に起き、経済は悪化の一途を辿る。
人々の心には、輝かしい過去の幸福だけが描かれていた。
そんな時代から掛け離れた姫が、一人。
時代劇に出てきそうな屋敷の、縁側の襖がゆっくり動くと、真っ白な寝間着に身を包んだ美しい少女が現れた。
さわさわと風が吹くと、寝間着の裾がなびき、透き通りそうな肌があらわになる。
真っ白な寝間着がより一層肌の透明感を強調する。
風に乱された漆黒の髪もまた、美しさを際立たせた。
少女はそのまま草履を履き、綺麗に手入れのされた中庭へ進む。
ふと、朝露を乗せた葉をつまむと横を見た。
「…いるのだろう?」
少女は視線を外さずに呟く。
その視線の先には、整えられた水墨画のような中庭が広がるだけ。
しばらく少女が見つめていると、そこの景色が一瞬歪む。
「いやぁ~ん、紅玲さまったら、気付いて下さったんですねぇ~❤」
キャァキャァと少し高めの声で幼い少女が現れた。
「…月夜」
紅玲と呼ばれた少女は、目の前に突然現れた少女に驚きもせず、頭を抱えた。
「も~、紅玲さまにお会い出来る日を、待ち焦がれておりましたのにぃ」
「…月夜」
「でもっ!!やっぱり紅玲さまは、しばらくぶりでもこの月夜の気配は忘れていらっしゃらなかったなんてぇ、月夜、嬉しゅうございます❤」
「…月夜、うるさい」
甲高い月夜の声は、寝起きには少し堪える。
ましてや、このハイテンション。
頭にガンガン響く…。
こうなることはある程度、予想していたが、それ以上だったことに紅玲は肩を落とした。
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