月夜の過去

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逃げ惑う姿が、好きだった。 それを追い掛けるのも、好きだった。 恐怖に震える顔が、堪らなく好きだった。 裏切られた瞬間の表情が、愛おしくすら感じた。 泣き叫ぶ声に、ゾクゾクした。 死にたくないと懇願する震えた声に、胸が高鳴った。 飛び散る鮮血に、興奮を抑えられなかった。 人間も、そうでないものも、敵も、仲間も、年寄りも、子どもも、関係なかった。 返り血を浴びるたび、『生きている』ことを実感できた。 まだ、この世界で生きられる…。 力が全ての世界で生きていくには、勝者にならなくてはならなかった。 敗者になった瞬間、生きていることは、許されない。 暗黙のルール。 …じゃあ、今は?
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