―夢?それとも前世の記憶?―

6/8
前へ
/10ページ
次へ
そして、俺を乗せた黒い車は走り出した。 しばらく無言が続いていた。 数分経ったところで、スーツを着たおじさん――――運転手は口を開いた。 「悠紀様、冨美子(トミコ)様が・・・。」 運転手は何かに怯えているような表情で、言って、急に黙り込んでしまう。 なんだ?何に怯えているのだろうか。それにしても、誰だろうか、冨美子様って人は。 でも様付けということは、身分が高い。つまりこの運転手の雇い主。 でも冨美子様―――ってどこかで聞いた気がする。 あ、もしこの記憶が悠紀のものであるなら聞いたことはある。 暫くすると、車は止まる。 景色を見渡すと”豪邸”という名の家の前に、車は止まっていた。 そう呆然とした表情で見ていると、急に車のドアが開かれた。 「さぁ、着きましたよ。」 そのドアを開けた運転手は俺に降りるように促した。 その行動に、悠紀は慣れているのだろう。と不思議なことを考えてしまった。 それにしても、本当に自分は、この前世(じだい)の人間なんだろうか。 そのことが頭に浮かぶ。 いつまでも降りようとしないのを不思議に思った運転手が、 「悠紀様?どうかなさいましたか?」 それで我に帰った。 「いや、すこし疲れたと思っただけだ。」 そう言って、ゆっくりと腰を上げ、車から降りた。 そして、大きな扉の前で立ち止まる。 この先には一体なにがある? ふと頭に浮かび不安になった。 扉を開けるのを躊躇った。 しばらく固まったままいると、運転手が駆け寄ってきて、 「悠紀様?一体どうなさいましたか?」 悠紀ならばここで立ち止まっているのはおかしい。 つまり躊躇っている場合ではない。 そこで、自宅と同じようにゆっくりと扉を開けた。 すると白と黒い服を着た数えきれない人数の使用人らしき人々がいて、 『悠紀様、お帰りなさいませ。』 と一斉に言うもんだから、いつもの自宅で慣れているはずなのに、びっくりした。 そこで、運転手は 「悠紀様、冨美子様がお待ちです。」 .
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加