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里志は、父にどう言うべきか、必死に考えた。
しかし、適切な言葉が見つからなかった。
ピーンポーン
誰か来たようだ。
「ハイ、どちら様ですか」
母が、シャモジを持ちながら、インターホンにでる。
「あっ、はい。では、中へどうぞ」
ガチャ
「夜分遅くに失礼致します。埼玉バタフライズ、スカウト主任の佐藤一郎と申します。」
僕は、佐藤一郎と聞こえた瞬間、玄関へ走った。
「君が、山仲里志君だね。こんばんは、佐藤です。」
「さ、さ、佐藤さん!あの佐藤投手!」
「どの佐藤か分からないけど、一時期埼玉バタフライズで、投手をやらしてもらっていました。」
「見ました!日本球界一のパームボール!」
「僕、佐藤さんに憧れてパームを覚えたんです。」
「おっ、本当かい。ちょっと、握り方見してよ。」
そう言い、佐藤は、すっとバックからボールを出した。
「こんな感じですね」
「うーん、ちょっと指先に力が入りすぎだな。もう少し、軽く。そうそう、いい感じだ。」
憧れの佐藤から、教れている里志は、目が輝いている。
佐藤一郎
埼玉バタフライズ最強伝説を築き上げた年のエース。
球界一の球速168kmを投げたこともある。
ただ、その時故障をし二軍生活を送ったが、日本シリーズ直前に佐藤は、バタフライズに帰ってきて、見事にバタフライズを日本一にした。
次の年からは、球速は、140km台に落とし、決め球を、高速のスライダーからパームに変えたが、むしろそれが、彼のそのあとを後押しした。
「それじゃあ、そろそろお話をしようか。」
里志は、急に背筋がピーンとなり、緊張感を増した。
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