大晦日

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ついでなので千代さんの場合。 「カツカツと派手に靴音鳴らして歩く彼女の足はフラフラとしながらもしっかりとした意思を持って踏み出されている。年長者としての意識が酔っているからとはいえ隙のある態度を年下に見せる事を許さないのだろう。 しかし…酒に弱い体質のせいで頑張っている割には他の者にそれは伝わらない。天然ボケと評される彼女の性格…本人は一つの事に集中すると回りの事が目に入らないだけだと思っているのだが他の者からはそれを注意力の欠如、所謂(いわゆる)天然ボケと捕らえる。本人がそれを自覚していない所も天然ボケという評価を定着させてしまう要因だろう。「ねぇ!そろそろ神社に付くかしら?」 立ち止まり、膝の辺りまで伸びた黒髪を颯爽と翻しながら彼女は振り返る。夜道の街灯の下に舞う彼女の長い髪とグレーのロングコート…その姿は華麗にステップを踏むバレエダンサーを思わせた。そして街灯の下に照らし出される均整の取れた身体と美しい顔立ち。長身の彼女の容姿は絵画本に紹介されている外国の女神…もしくは美術館に展示してある女神像のように完璧な美しさを備えていた。 しかし…今の彼女は熱燗を御銚子で2本も飲んでしまった単なる酔っ払い…本人は格好付けて振り返り年上の威厳に満ち溢れた態度で質問したつもりだが、酔いも有りかなりフラフラしているので実際には「ねぇ~そろそろ神社に付くかしらねぇ~?」とだらしない態度で質問しているのである。これが人間と神との差なのだろうか?見た目は女神の様に見える彼女の行動はとても人間味に溢れ親しみを感じる事が出来る。言い終えた後にフラフラとよろけている身体を横にいる中学生の小夜子に支えて貰っていた。その姿に年上…二十三歳としての威厳はまるで無い。 しかし、男の中にはこの手の女性を可愛いと思う者も多いので包容力のあるタイプの男は美しくもドジで目が離せない彼女のような女性を放ってはおかないだろう。 「…千代さん…危ないですからヒールの付いたブーツで急に振り返らないで下さい。え~と、見えますかね?あの屋台の明かりが見える辺りが神社ですよ!」と佐藤ケンジは千代を小説風に頭の中で描写しながら答えるのであった…
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