30歳のバースディ

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結局会計は私がして、間宮は満足そうに 「ごちそうさまでしたぁ」 とネットリとした口調で仕事に戻っていった。 さて、来月のセール企画の内容を早めに整理しておこうか。 私はパソコンと資料を交互に睨み付け、集中して仕事を再開した。 10分程経った頃だった。 トントンっと肩を叩かれた。 私は咄嗟に後ろを振り向いた。 「チーフ!」 クックックッと笑う同期の結花が立っていた。 「結花!どうしたの?」 現在結花は全く違うフロアで、ちょっと年配の婦人服の担当をしている。 結花は私の耳元で小さく呟いた。 「誕生日おめでとう!いつものバーでお祝いしよっ。7時でどう?」 私はぷっと吹き出した。 デジタル化したこのご時世に逆らうようにして、階をまたいでまで伝言を伝えにくる結花。 同世代の心地良い匂いがプンプンする。 私は嬉しくなって何度も頷いた。 結花は全く関係無い資料を胸に抱えて、ヒラヒラと手を振って居なくなった。 30歳。 こういう些細なことも幸せに感じる。 いいことだ。
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