30歳のバースディ

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歩いて5分もしない所に行き付けの『バー』がある。 その名も、『バー近藤』 ストレート過ぎるネーミングに、横にスライド式の和風のドアを開けると、どこが『バー』何だかと呆れるくらいの焼き鳥の匂いがした。 私と結花はいつもの定位置のカウンターに座る。 せめてもの『バー』気分。 大将と呼ばれる店主の近藤さんとは、かれこれ8年の付き合いになる。 何も言わなくても大ジョッキに入れられたキンキンに冷えたビールが目の前に乱暴に置かれた。 「ももちゃん誕生日おめでとう!ゆかちゃん、いらっしゃい!」 30歳になっても『ちゃん』付けで呼んでくれるこの居心地の良さ。 まぁ、50歳過ぎの大将に比べたらまだまだぺーぺーなんだけど。 私達は早々に乾杯を済ませ、お決まりの愚痴トークに突入する。 30歳を回った私の愚痴は尽きることを知らない。 勿論、まだ29歳のギリギリの結花も負けてはいない。 息つぎするのも勿体無いくらい、喋りたいことが次から次に出てくる。 自分が嫌になる瞬間でもある。 けど滝のように流れ出る文句は一度溢れ出したらとどまることを知らない。 いつの間にかマイボトルの焼酎ロックをグビグビ飲みながら、私達は夜が更けるまで語り合った。近所のゴシップ好きおばちゃんも真っ青なくらい、喋り続けたら、スッキリした。 ふぅーっと一息ついた頃、大将が小さなケーキを目の前に出してくれた。 「もう直ぐで30歳の一日目が終わるよ。お祝いもラストスパートといきますかぁ!」 大将のぶっとい枯れた声で、バースディソングが歌われる。 大概酔いが回った結花も手拍子で盛り上げてくれた。 ちょこんっと三本乗ったろうそくの火を、私は目一杯息を吸い込んで消した。 ふぅー!! ろうそくは目一杯吸い込んだ息を無視するかのように、たった一本だけ力強く火を灯していた。 まだ30歳になんてなりたくないよ…… まるで私の心を理解してくれているようでちょっぴり笑えた。
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