30歳のバースディ

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終電間際になり、結花が時計をチラチラと眺める。 「帰ろっか?」 私の声に結花は首を横に振った。 「……明日は休みだし、もう一軒パーッと行かない?」 呂律が回らない口調と、虚ろな目で、結花は私を見ている。 結花の体調も心配だけど、こんな日くらいもっと飲みたい。 それが本音。 私達は大将に別れを告げ、次の店に移動した。 バー近藤から歩いて直ぐの場所にその店はある。 初めて来たのはお酒を覚えたての頃。 仕事が出来て、憧れだった先輩に連れられてだった。 通い歴で言えば、バー近藤と同じくらいである。 雑居ビルの三階の汚いエレベーターを降りると、正面に鏡張りの重厚な扉がある。 「3○3」 これまた滑稽なネーミングの店だ。 店名の由来は303号室だからだとか。 本当かはわからないけど、まぁ、どっちでもいい。 私は重い扉を開けて、中に入った。 「いらっしゃぁい!……あらぁ、もも、あんた遅いのよ」 ガタイのいいママが私の手をグイグイ引いて、ソファーに座らせた。 ママの名前はキャメロン。 いわゆるニューハーフだ。 「キャメロン~とうとう三十路になっちゃったぁ」 私がキャメロンに抱きつくと、すぐにぐいっと凄い力で体を引き剥がされた。 「もも、あんたが抱きつく相手はあたしじゃないでしょ?もぅそんな趣味ないわよぉ」 おほほと上品に低い声で笑うキャメロンは、ガタイこそいいが、どこからどう見ても女だ。 はっきり言って、私なんかよりも仕草は色っぽいし、見せ方を心得てる分、輝いていて美しい。 私はベロベロに酔った結花と楽しげに話すキャメロンに見とれていた。
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