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潔白の刻:
私は、何かとトイレの中に居たがる体質である。
別にトイレに変な性癖が有る訳ではない。ただ、これ程落ち着ける空間を他にまだ知らないのだ。
私は、便座に腰を掛けると、静かに目を瞑る。
ボーっと聞こえる浄化槽の音。ファンの回っている空気。迫るように狭い、しかしちょうど良い広さにも感じられる空間。
お気に入りの芳香剤や洗浄液を使えば仕組まれた世界にはなるが、匂いだってそれでも快適になるなら、よく使う。
私は、便座から見る、この狭い世界を見るのが好きだった。
背丈が半分くらいになるように腰を沈め、ゆっくりと天井を見上げる。
思いの外、天井は高い。
腰を上げふと横を見る。備え付けの窓から、曇り空が見えた。
鉛色の、酷く重そうな雲の集合体。本来の流れさえも感じられない、そんな停滞感。
何故、私はこの世界を愛していないのだろう?いや、愛されていないのかも知れない。
突発的にそう思った。
羽があっても、私は窓からは飛び出さない。ずっとこの「トイレ」に居続けると思う。
世界は広すぎる。そしてあまりにも汚い。様々な不純物で溢れかえっている。
トイレはその一部を洗い流してくれる。広さも好きだ。
だから、トイレは世界で一番愛すべき場所であって欲しい。
そう願うことは、きっと単なる自己満足で終わってしまうのだろうが、それでも構わない。
私にとってのサンクチュアリは、紛れもなく「ここ」だから。
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