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何者でもない貴方へ:
手紙を書くとき、別に宛先は貴方ではないのに、貴方の後ろ姿がふと脳裏を過れることがある。
それはもう8年も昔の、まだ学ランを着ていた貴方の後ろ姿。
桜並木とか銀杏並木だとか、そんなドラマチックな場面でならそれも栄えて映るのに、それは何もない帰り道の、紅い夕日でさえもバックにしないような、そんな冴えない背中です。
貴方にラブレターを書いた記憶はありません。好きとか、そういう感情もありません。友情とも違います。
それなのに、貴方は私を身動きできないようにします。貴方は一体、私に何を置いていったのでしょうか?
それはあまりに重いから、私のような女一人では持ち運べません。
だから早く取りに来て。
丁重に返却しますから。
早く、早く取りに来て。
貴方は分からない。私にも分からない。海の向こうならまだしも、空はあまりに遠すぎる。だから、届かない。
私は処女を捨てた。
ある日、女になった。
つまらない男とキスをした。
私は視力が落ちた。
何かを見落としがちになった。
そして、貴方を忘れかけていた。
貴方に手紙を書いたつもりはないのに、ポストに手紙を投函するときに浮かぶのは、貴方の後ろ姿。
きっと何か暗示めいたものが、私たちにはあったのでしょうか?
それも分からない今は、ただただ貴方を思いだすばかりです。
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