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ヨーロッパのとある国、時代は中世、華の都パリがクソまみれであった頃のお話である。
この物語のヒロイン、アリアという村娘はいきなり人生最大のピンチに陥っていた。
「ん゛~! ん゛~!」
「こらっ、静かにしねぇべか!」
重い荷物を担ぐ数人の男たちの中の一人が、田舎丸出しの訛りで荷物に向かって怒鳴った。その荷物というのは、真っ黒くて細長い箱のようなものであって、人一人が余裕で入れるものである。別名『棺』とも言うだろう。
ただ普通の棺と違うところは、中に入っている人間は生きているということだ。ただし、中にいるヒロインは猿ぐつわをされて喋ることはできないし、両手両足を縛られて動けないし、おまけに棺には鍵がかかってどう足掻いても逃げることはできない。
結局は棺としての役割をそのまま果たすかもしれないそれは、緩やかな山道をえっちらおっちらと登っていた。乾いた地面の上に降り積もる落ち葉をガサガサと音を立て、棺を抱える男たちの足はまるで百足のように蠢き進む。寂しくなった木々を見上げれば針金のような枝の隙間からまん丸い月が見えた。
棺が運ばれる先、男たちが上っている山の頂上には孤城がある。山々を見下ろすそれは天上から世界を統べる神の城をイメージしているらしいが、暗雲の隙間から垣間見える満月に照らされたそれは、もはや悪魔城としか言い様がなかった。
さて、何故この何の変哲もない村娘がこのような目に遭っているのか。それは数時間前に遡る……。
† † †
孤城がそびえる山の麓には小さな村があった。村の名前もそこに住む村人たちにしか分からないほどのド田舎村は、毎日をつつがない生活で安息の日々を送っていた。山を見上げれば不気味としか言いようがないお城も、慣れてしまえば気にならないものである。
ところが、気にしなければならない事件が起こってしまった。
「村長~、大変だべさ~」
人気の少ない村の中を、農作業用の衣服を着た男ジョン(二十三歳独身)がわめきながら走っていた。片手にクワを持ったまま、村で一番大きな屋敷へと飛び込んでいく。
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