眠り

2/2
21429人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
暗闇を歩き、暗闇に住み、暗闇に生きてきた。 「なぜ、俺だけが」 そう思うこともあった。答えは簡単だった。俺自身が闇だったから。 俺はいつからか考えることをやめてしまった。人とかかわることもいつからやめたのか思い出せない。ただ茫然と、息をして、食事をして、寝る。死ねるものなら死んでもいいと思った。でも、そうするわけにはいかなかった。 今もこうして一人で氷山にいる。ブリザードが吹き荒れ、登山の装備なんてしていない俺はどこが凍傷になったかも把握できず、ただただ風と雪が叩きつけてくる暗闇を歩いていた 。轟轟と鼓膜に突き刺さる風の音、体も次第に感覚がなくなってくる。あぁこのまま凍ってしまうのもいいかもしれない。でも死ぬわけにはいかない。魔力を使い上手く冬眠のようになれば誰にも迷惑をかけずに永久に眠っていられるかも。あぁ、それだ、そうしよう。有り余る魔力も体がこんな状態では十二分に発揮できないが、少し使えればそれでよかった。体に魔力を通わせ、魔力で生き続けるようにする。魔力がある間はこれでどうにか死なないだろう。 体の動きがどんどん鈍くなっていく。腰まで雪に埋まりちっとも進んでいないようにも見える。足先の感覚なんてとうに無く、どこかに足を置き去りにしていても気づかないだろう。なおも視界は暗闇で遮られている。このまま目を閉じてしまえば開けることはないだろうか。最後に見ておきたかったものは……いや、そんなものはなかった。 いよいよ体が動かなくなった。瞬きのつもりで閉じた瞼ももうあかない。凍りついてそうなったのか、はたまた体が無意識にそうしているのか、もうどっちでもよかった。生きながらに体が凍りついていく。意識ももう半分は暗闇に沈んでいた。もう何も考えなくていい。脳が凍りついていくかのように、俺の思考は止まっていった。 そして、全て闇に沈んだ
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!