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人一倍冷めた性格を持つ松帆にも、ソレは純粋に美しいと感じさせた。
第一印象として、
ヒトの領域を超越した日本人形。
半透明と錯覚しそうなまでの白磁の肌。
それを地とした小顔を飾るパーツは、それぞれヒトとしての最高の部品を選び抜かれたとしか思えない。
造形として彫は浅く、それはまさに日本女性の美を極め、越えた芸術品。
ソレの纏う淡く華やかな和色に染められた和服が、その印象をより一層引立てていた。
極めつけは、畳に広がった細く艶やかな銀の髪。
たとえ職人が極上の絹糸を梳った所で、この月光を流したような白銀には到底及ばないだろう。
瞼の位置に切りそろえられた前髪は額の上で乱れ、それすらも神秘的な色気として印象付けられる。
色素などという不純さを知らない、どこまでも無色のヒト。
だがそれは決してアルビノの病的な白ではない。
ソレは、例えるならば光。
この世に唯一無二の存在、“陽”の象徴。
その美しさはヒトとしての造形美ではなく、「彼」の存在そのものの輝きの美。
現に、今こうして棄てられたマネキンのように畳の上で無造作に倒れていても、その美しさには一点の曇りも無かった。
かっと見開かれた浅紫の瞳に光が無くとも、それを縁取る艶やかな睫毛は芸術品。
華やかな極上の着物が着乱れていようと、襟元から覗く絹のような素肌は息を飲む程に眩しい。
あらゆる意味で、「彼」はヒトを越えていた。
だが、「彼」はそれでも紛う事なき純粋な人間である。
一般人との相違点はただひとつ。
過去の歴史の中で常に存在し続け、
これからも現世に永劫存在し続ける、
ただ一つの“陽”であるという事。
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