黒白境御伽噺話-モノクロキョウオトギバナシ-

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松帆は今日で二度目となる舌打ちを鳴らし、ポケットの中の“武器”を掴んだ。 普段相手する程度の“魔”なら、既成の札か掌中符で事足りる。 だが、アレ程までに巨きく、濃縮された“魔”を破るには、相応の“符”で対抗するより他無い。 相手の性質や形状、用途に応じた札を、その場で作り上げる。 つまり、即席オーダーメイドと言っていい。 引っ張り出された松帆の“武器”は、薄汚れた四枚の短冊形の和紙。 『玉帝有勅、神血灸灸、形如雲霧、上列九星、神血軽磨、霹靂糾粉、』 指先の皮膚を食いちぎり、自らの血で四枚の紙切れを瞬時に“符”へと昇華させる。 二本の指で紙を弾いた瞬間紙面に文字が現れる様は、一般人レベルでの動体視力では手品にしか見えないだろう。 神速とも呼べる疾さで指先が紙の上を滑る様子など、肉眼で捉えられる筈もない。 だが、これはあくまで正当な手順を踏まない、最低限の儀式での製符。 手順を省いた分効力は多少落ちるが、この場の“気”を利用すれば、アレを祓うくらいの力には何とか及ぶだろうと松帆は践んだ。 札を用いる陰陽術においてネックとなるのは、対するモノが強大である程に、ソレを滅する為の下準備に時間を要する事である。 “由良”は恐らくそれを承知した上で、あの忍を用意したのだろう。 それは素直に感謝せざるを得ない。 たん、と小気味の良い音を立て、手近な柱に札の一枚を張り付ける。 糊も止め具も用いる事なく、札はぴたりと木製の柱に密着した。 既に腕の数は、忍一人では対処しきれないまでに増殖している。 だが、下準備は済んだ。 大丈夫だ、なんとかなる。 残る三枚の札を握り、松帆は駆け出した。 _
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