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夢を見た。
なんの脈略もないちんけな夢だ。
散髪に行った後に一本だけ残って飛び出ている、長い髪の毛ほど無意味な夢を。
それは、覚えているのにはあまりにも馬鹿らしい夢だった。
そう思った瞬間、あっという間に夢は俺の頭の中から消え去った。
不思議だ、もう思い出せない。
俺はベッドで寝返りをうった。
お値段以上のニトリのベッドがギシギシと、音を立てる。
俺は机の上に手を伸ばして、電波時計の頭をひっぱたいた。
真っ暗闇だった俺の部屋に光が生まれた。
濁ったやる気のない緑色の光が俺に時刻を知らせてくれる。
20:49
素晴らしい。
夕御飯を食い損ねたようだ。
俺は仰向けになって、天井を見上げた。
腹が減った。
そう思った瞬間、お腹がギュルギュルと音をたてる。
正直な体だ。
しかし、起き上がる気になれなかった。
このまま寝ちゃえば明日になる。
それができればどんなに楽か。
俺は一度起きたらなかなか寝付けない自分の体質を呪った。
なんなら身長を5センチ献上してでも2度寝のプロになりたかった。
それに、空腹が限界を超えている気がする。
3日間、飲まず食わずでサハラ砂漠を歩いた感じだ。
実際に、サハラ砂漠には行ったことはない。
俺は、体の下敷きになっていた携帯を取り出した。
着信、ゼロ。 Eメール受信、ゼロ。
退屈だ。
俺はしばらくぼうっとして、ベッドの上で仰向けになっていた。
こんなに暗い部屋なのに、天井にひっついている蜘蛛を視認できた。
蜘蛛は微動だにしない。
あれは本当に蜘蛛だろうか?
ただの染みにも見える。
もし蜘蛛だとしたら俺を狙ってるのか?
俺が寝てる隙に鼻から入り込み、腹の中に卵を産んで内側から貪り食うのか?
馬鹿馬鹿しい。
寝たい。
「兄貴」
突然、声がした。
そしてその後に乾いたノックの音。
「起きてんの?」
妹の訪問だ。
「なに?」
俺は横になったまま返事をした。
「スイカ。切ったよ」
腹がギュルギュルっと鳴った。
「まじで?」
「まじ」
俺はベッドから立ち上がって部屋を出た。
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