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何ヶ月も放置された生ゴミの臭い、野良猫の獣臭。
それと、雨に濡れたコンクリートが放つ、切なげな匂い。
それらのニオイが一緒くたになって僕の嗅覚を麻痺させた。
僕は今、路地裏にいる。
巨大なパチンコ店と、巨大な進学塾の間にギリギリ存在する路地裏に。
雨はそれでも、僅かな隙間を見つけて容赦なく僕に降りかかる。
数ヶ月切っていない髪の毛が、僕の顔に鬱陶しくへばり付いた。
僕の着ている白いYシャツは、まるで体の一部のようにぴったりと張り付いていた。
ようするに、コンディションは最悪だった。
さらに、僕は厄介な問題を抱えていた。
たった今、それは勃発した。
「こんな時間にここを通ったお前が悪いな」
と、僕の前に立ちふさがる男のうちの一人が言った。
俗に言う、不良って奴らだ。
この路地裏で仲良くシンナーを吸っているところに、僕がたまたま現れた、という状況だった。
なんの面白みもない。
腐った生ゴミ、濁った水たまり、人間のカス、それと僕。
「それは、申し訳ありませんでした」
僕は謝った。
それで解決するなどとは、微塵も思っていなかったが。
「ごめんで済むなら警察はいらないんだよ!」
タンクトップ一枚にダボついた灰色のスウェットを履いた、入れ墨だらけの男が言った。
説得力はある。
こいつらはどうせ何回も警察にお世話になってるハズだ。
ごめんなさい、で済まないことについては、彼らはエキスパートだ。
「そうですけどね。一応怒った相手に謝るのがマナーというものじゃないですか」
僕は言った。
「あぁ? ダメだ。こいつなめてんだろ」
タンクトップが言った。
その言葉に、4人の仲間が一斉に僕に近づいて来た。
そして、僕を取り囲んだ。
「僕は、この道を通りたいだけなんですが……」
「残念だ。そうは行かねーよ。今日この道を通ったことを後悔するんだな」
タンクトップの左側にいる、緑のジャージを着た痩せた男が言った。
非常に、酒臭い。
「もう後悔してますよ。まさか、こんな所でこんな雨の日に薬パーティーが開かれてるなんて」
僕はなんのためらいもなく言った。
そして、予想通りの出来事が即座に起こった。
僕は、タンクトップに胸倉を掴まれて、壁に叩きつけられた。
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