PROLOGUE【BLOOD】

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「命がほしけりゃなぁ、口を包めや」 タンクトップが僕の顔にグイッと顔を近づけながら言った。 ニンニクの臭いがツンと、僕の鼻をついた。 薬パーティーの前に、焼き肉パーティーでもしていたか。 「えっと……『命が惜しけりゃ、口を慎め』ってことですよね?」 「……」 タンクトップはしばらく僕を見つめた。 仲間のうちの一人が、後ろで少し吹いていた。 雨は、相変わらず強い。 そう言えば、明日は台風6号が来るらしい。 僕には一足先に、来てしまったみたいだが。 「なんにも理解できてねーようだぁ」 タンクトップは乱暴に僕を離した。 少し宙に浮いていた僕は、よろけながらも着地した。 「理解? そうですね。……多分あなた達みたいな人は一生理解できませんよ」 僕は襟元を正しながら、言った。 「死ぬか。ここで」 タンクトップが、無表情で言った。 弱い奴ほど、よく吼える。 こいつは、なかなか強者そうだ。 なにより、冷酷そうだった。 「死にたくは、ないですねぇ」 『死にたくはない』という僕のメッセージは伝わらなかったみたいだ。 タンクトップは、スウェットのポケットから折りたたみ式のナイフを取り出して、パチンと開いた。 物凄くぴったりなタイミングで、夜空に閃光が走り、直後に雷鳴が轟いた。 雨はより一層、激しさを増した。 タンクトップの後ろの4人も、ナイフを構えていた。 「ナイフ、流行りですか?」 僕は鼻で笑って聞いた。 僕一人相手に5人がかりで、しかもナイフだけしか用意しないとは、なんと愚かなことか。 「あばよ」 タンクトップが言った。 僕はニッコリと笑った。 再び、雷が鳴った。 タンクトップは、ナイフを僕の心臓目掛けて、一直線に突き出した。 「グフッ…………ゴッエ」 嗚咽が、路地裏に漏れた。 その音は、雨の音でほぼかき消されていた。 しかし、近くにいた僕には、十分聞こえた。 生命が終わろうとしている時の、息遣い、嗚咽。 「次は? あなた達ですか」 僕は言った。 タンクトップは、コンクリートに溜まった水たまりにバシャリと倒れた。 タンクトップの胸には、ナイフが深々と刺さっていた。
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