PROLOGUE【BLOOD】

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残り一人は、仲間の死に目もくれずに驚く程速く逃げていく。 緑ジャージ君を見習ってほしい、と僕は思った。 少なくとも彼には、僕に立ち向かう勇気と度胸はあった。 仲間を見捨てて逃げるなんて、カスの中のカスだ。 あの偉大なカカシ先生も言っていただろう? 僕はしばらく、だんだんと小さくなる逃走中の男の背中を眺めていた。 醜い。 そこまでして生きたいか。 体を薬漬けにして、人生を台無し、毎日目標もなくただ生きているだけの人間が。 ナイフを持ち歩くのは、どうしようもない自分から逃げるためじゃないのか? 一思いに楽になるためじゃないのか? 僕は、鼻で笑った。 人間なんてそんなものだ。 何も期待しないさ。 僕は顔を上に向けて、滝のように降り注ぐ雨を真っ向から受けた。 顔についた返り血がながされていく。 Yシャツはもう捨てなければならないな。 僕はそんな呑気なことを思っていた。 そして、気付いた。 僕にはもう装備がない、 と。 これでは残り一匹にとどめが刺せない。 困った。 逃げていく男を見つめた。 男まで、100メートルくらいの距離が開いていた。 僕はため息をついた。 そして、再び上空を見つめた。 稲妻が蜘蛛の糸が広がるかのように走った。 僕は、ゆっくりと膝を曲げた。 下に転がっている死体から酒の臭いがかすかにした。 僕は顔をしかめて、思い切り跳躍した。 景色が一変に変わる。 全ては、上から下へ流れる。 僕は飛び上がって、雨に逆らうように突き進み、進学塾の大きな看板の上に着地した。 そこからは、陰鬱な雨の街並みが一望できた。 少し霧がかっていて、街の光が全体的にぼやけて見える。 僕は再び、ジャンプした。 今度は前方に、だ。 僕は比較的新しいビルの屋上に着地した。 そして人間離れしたスピードで、建物の屋上伝いに走り出した。 こんな雨の中外に出る人はほとんどいない。 しかも、深夜だ。 僕は久しぶりに一目を気にせずに走ることができた。 屋上の上をピョンピョンと跳ねていく。 スパイダーマンのように。 僕は灰色の退屈なビルの屋上で止まり、そのまま、再び路地裏に降りた。
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